◆横浜市、中旬に10年地方債をリセット 市場に一石投じる

◆横浜市、中旬に10年地方債をリセット 市場に一石投じる
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*11月18日21時15分に配信した記事を再送します。

      発行体(回号)    金額     償還  応募者      JGB    備考                
                       (億円) (年月日)   利回り   スプレッド (方式など)          
■   11月18日 金曜日    ------------------------------------------------------
  横浜市(3)               100 32/11/30   0.499% T368+25.5 Gサックス/東海東京/ 
                                                          野村                

 
横浜市の10年債が、11月に先行した他の地方債よりもワイドなスプレッドで条件決定した。地方債市場では市場環境に変化が起きても、1カ月間は月の最初に決まった条件などが変化せずに続くのが一般的だった。しかし、横浜市は先行案件にとらわれず、「今」の環境に合わせた水準を再設定した。国債カーブ対比のスプレッドを算出する上での「月債」の考え方も先行案件とは異なり、1カ月間変化しない新発の地方債市場のあり方に一石を投じた形だ。

横浜市債の国債カーブ対比のスプレッドは+25bp程度。11月に入って条件決定した10年地方債のスプレッドは東京都債や入札方式の大阪府債を除くと+20bp程度だったことから、今回は月内の先行案件よりも一気に5bp程度ワイド化した。

新発の地方債市場を1カ月単位で見ると、環境が変わろうとも、月の最初に決まったスプレッドや利率といった水準が1カ月間続くのが一般的だ。今回のように月の途中でスプレッドが動くのは異例と言える。

今回、先行案件から変わったのはスプレッドだけでない。10年地方債はベンチマークとなる10年国債と償還月が異なる場合が多い。今年11月に発行されて2032年11月に償還される地方債は、ベンチマークとなる国債の償還が32年9月になる。国債カーブスプレッドを算出する際、償還月の差の分を、国債イールドカーブの形状を基に国債対比スプレッドから調整する分が「月差」だ。イールドカーブの形状は日々変化しており、本来であれば月差も日々変化する。だが、地方債市場では月の最初に決まった月差も、1カ月を通じて変化せずに用いられるのが慣例となっていた。

地方債市場が月の最初に決まったスプレッドや月差、絶対値プライシングであれば利率が、1カ月間変化しなかったのは、リーマン・ショックによる金融危機以降、総じて需給は引き締まり、利率は低下、スプレッドはタイト化が続いてきたためだ。投資家は購入機会を優先して月差やスプレッドに目をつぶってきた。このため、1カ月間同じ水準が続いても大きな問題は起きなかった。

しかし、今年に入ってからは国債金利の上昇や振れ幅の大きさなどから、新発債の需給は軟調になっていて、10年地方債のスプレッドは拡大を続けてきた。それでも、投資家のモメンタム悪化に歯止めがかからなかった。
10月の地方債市場では主幹事方式の案件は、起債運営の透明性が高さから発行分は消化されているもようだ。しかし、シ団方式の案件については起債運営の透明性確保を義務付けている日本証券業協会の自主ルールの対象外。市場に大きな影響力を持つ大手投資家が購入を見送ったようで、消化は厳しい状況だ。ある市場関係者は「一部のシ団は条件決定してすぐに流通市場で99円20~30銭のオファーを出している」(市場関係者)と話す。

需給が悪化した環境下では投資家はシビアだ。10月の新発債の条件とセカンダリーの水準が乖離(かいり)していることに不満があった上、月差の拡大も求めていたという。

横浜市債は先行案件と一線を画して旺盛な需要を取り込む狙いから、水準をリセットして「今」の居所をあらためて追求した。結果的にはシ団銘柄で参加を見送った大手投資家が参加している。主幹事によると、市場環境の変化に素早く対応するため起債アナウンスを行わなかった。マーケティング期間が短かったため、参加に間に合わなかった投資家がいたものの、関心を持つ投資家も多かったという。横浜市債の起債運営は1カ月間変化しない地方債市場のあり方に一石を投じている。

マーケティング・レンジの推移は以下のとおり。

 
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┃              │       10年       ┃
┠───────┼─────────┨
┃11日~16日午前│    サウンディング     ┃
┠───────┼─────────┨
┃16日午後      │国債カーブ+24~25bp ┃
┠───────┼─────────┨
┃17日          │国債+25.5bp       ┃
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11月の先行案件の販売不振から新たな水準の設定の必要性は発行体、主幹事共に織り込み済みであったが、16日に東京都債や愛知県債が条件決定を予定していた。両債のローンチ前に横浜市債のガイダンスやマーケティング・レンジが提示されれば、両債に影響を与えかねない。このためサウンディングでのガイダンスの提示は東京都債と愛知県債がローンチした直後に行われた。

ガイダンス提示前にサウンディングで投資家の意向を確認したところ、大手投資家は国債カーブ+20bp台半ばを求めていたという。ガイダンスは先行案件の水準を下限、大手投資家の希望水準を上限に置いた「国債カーブ+20~20bp台半ば」が示された。主幹事はガイダンスの上限寄りであれば大手投資家の分を含めて100億円を超える需要を獲得できると判断。+20bp台半ばに相当する2本値のレンジを設定した。

同時に月差の議論も行った。先行案件の月差は「0bp」と解釈されている。当時のイールドカーブは8~10年はほぼ平坦だったが、足元ではスティープ化したため今回は月差を「0.5bp」という前提に立った。レンジについては下限に対して抵抗感が示されたことから、当初レンジの国債カーブ+25bpに月差を考慮した国債+25.5bpの1本値のレンジをあらためて提示して水準を内定した。

参加した投資家の業態は以下のとおり。

都銀等、中央公的、系統下部、地方公的、諸法人

主幹事によると需要は発行額の1.6倍超で、7件の投資家が参加した。販売額ベースで中央投資家と地方投資家の比率は79対21。大手投資家が参加したことで中央投資家の比率が高くなっている。

                                          (福井 康典 DealWatch / Refinitiv)

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